東京シティオペラ協会

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KEI音楽学院

うんちく大家、大いに語る

Cosi fan tutte

Cosi Fan Tutte

うんちく大家
【 人間の学校 】の校長を気取る
〜 オペラ『コジ・ファン・トゥッテ』 〜

「おや、熊さんに八っつぁん。お揃いで何だね?」
「俺たちゃ、これからオペラ見物よ。それでな、オペラに行ったと後で分かると大家がうるさいもんでな。先にレクチャーを受けに来たという訳よ」
「おいおい、あたしゃあそんなにうるさいかね? で、今度の出し物は何だい?」
「エヘン、コジ・ファン・トゥッテ(女はみんなこうしたものよ)よ」
「おお、モーツァルトの最高傑作ではないかと、近年評価が鰻上りのオペラだね。でも、このオペラは最初のうちはあまり評価されなかったんだよ」

不当に低い評価の時代が長かった!

「このオペラは、〔フィガロの結婚〕の中での一節<きれいな女はみんなこうしたもの>を元に生まれたんだが、依頼者が誰だとかは諸説あってはっきりしていないんだ。しかし、名台本作家ダ・ポンテのオリジナルにモーツァルトが作曲したことは確かだ。初演は1790年。そこそこの成功だったが、折悪しく皇帝の死があって、続けての公演ができなくなってしまったんだよ。これが不運の始まりさ」
「でも成功だったんだろ?それがどうして不評になったのさ?」
「それは、当時が『不変の愛・真実の愛』を追求する、ロマン主義全盛の時代だったことにもあるんだな。なにしろこのオペラは、題名が<女はみんなこうしたもの>。ようするに女はみんな浮気すると宣言しちゃっているし、内容も恋人の貞節を試すハチャメチャなものでね。当時の人々には受け入れがたいものだったんだ。しかし、まあ超真面目人間で、ガチガチの道徳オヤジだったベートーヴェンが、このオペラは不道徳だと思ったのはともかく、台本が悪いなんて言ったのには驚くね。おかげで長いこと不遇の時代が続いたのさ」
「なるほど。でも最近はえらく評判が高いじゃないか。いつ頃から認められたのさ?」
「20世紀になってマーラーやリヒャルト・シュトラウスが取り上げて指揮するようになって、徐々に作品の良さが理解されるようになったのさ。近頃ではこれぞモーツァルトの最高傑作なんて言う人もいるね」

人間の本質をつくモーツァルトの音楽

「まず音楽の美しさ、深遠さ。そして人間の感情の揺れを見事に表したモーツァルトには今更ながら敬意を表せざるをえないね。幼くして人気絶頂を味わい、長じては人気の凋落に苦しんだ彼。そして天才ゆえにすべてが見通せてしまった彼だからこそ人間を皮肉な目で見たこのオペラが書けたんだと思うね。ダ・ポンテの台本は19世紀という時代の枠を超えていたが、モーツァルトがそれに素晴らしい花を咲かせたともいえるのさ」
「そんなに音楽が優れているのかい?こりゃあ楽しみだね」
「特徴はアンサンブルの多さ。美しいアリアも沢山あるが、重唱の素晴らしさは特筆ものだよ。じっくり楽しんでおいでな。それじゃ粗筋と聴き所を教えておくかな」

粗筋と聴き所
【第一幕】

「ところはナポリ。若い士官二人と老哲学者がなにやら激論をかわしていた。若い士官はグリエルモとフェランド。グリエルモは自分の魅力に自信を持っていて、努めて合理的に振る舞おうとする人物だが結構虚栄心も強い。一方フェランドは熱血漢で真っ正直。少し冷静さに欠けるが好人物だ。そして老哲学者はドン・アルフォンゾ。何でも懐疑的に見る人で、特に若い頃よっぽど酷い目に遭ったのか、女声は皆不実だと思い込んでおる。オペラ冒頭はこの3人の重唱で始まる。いきなり聴くものを惹き付けるこの手法は流石に手練だ。仕官二人が互いの恋人の貞節を信じてその魅力を称えていると、老哲学者が女の貞節を徹底的に否定する。怒った士官たちは決闘だといきりたつが、老哲学者はそれでは彼女たちが本当に貞節なのか試してみようと言い出し、仕官たちもそれに乗って100ゼッキーニの金を賭けることになった。この3人の性格は音楽で見事に描かれているから聴き物だよ」
「最初から展開が急なんだねえ。次がどうなのか早く知りたいよ」
「さて場面は変わってナポリの海岸近くの庭園。優美な旋律に乗って美しい姉妹の登場だ。姉の名はフィオルディリージ。美しく志操堅固で気丈な女性だ。妹の名はドラベッラ。情熱的で直情径行の気質があるチャーミングな女性だ。二人は恋人が来るのを待ちわびて互いに恋人の絵姿を見ながら、うっとりと恋人を称えている。これは実に美しい二重唱だ。ところで姉の恋人は仕官のグリエルモ。妹の恋人は、同じく仕官のフェランドなんだ。姉妹が恋人を待ちながら他愛ないお喋りをしていると、そこに現れたのは恋人ではなくドン・アルフォンゾ。例の老哲学者だ。悲しそうな顔をしているアルフォンゾに、姉妹が不吉なものを感じていると、アルフォンゾは、グリエルモとフェランドが王の命令で戦地に赴くことになったと告げるのだった。そしてそこに軍服姿の仕官二人が現れ、ここからは悲しい別れの場面となる。いや戦地に赴くなんてのは真っ赤なウソで、アルフォンゾの台本にすっかり乗せられた仕官たちが大芝居をうっているのだがね。それでも仕官たちは姉妹の嘆きようを見て恋人の貞節を信じ、内心は嬉しく思ったりしておる。この5人の心を表した音楽も見事なんだ。心の底から嘆き悲しむ姉妹。芝居をしながらも恋人の様子に安堵する仕官たち。そしてまだまだ勝負はこれからとあくまでもシニカルなアルフォンゾ。やがて兵士たちの勇ましくも明るい合唱に促されてグリエルモとフェランドは船に乗り込んで去っていってしまう。悲しみのあまり気絶しそうな姉妹は、船影に向かって手を振っていたが、音楽が海のそよ風と穏やかな波を思わせる揺らぎのあるものになって、ここで姉妹とアルフォンゾは航海の無事を祈り天上的な美しさに満ちた三重唱を歌うんだ。これは息を飲むような、虚脱感を誘うような、えも言われぬ音楽で絶対聴き逃せないよ」
「恋人が急に戦地に行ってしまうなんて、さぞショックなことだね。でもウソなんだろ?それからどうなっていくのさ?」
「さて、ここで新たな登場人物だ。姉妹の侍女のデスピーナが仕事の辛さをぼやきながら、姉妹のために用意したココアをこっそり舐めてみたりしている。デスピーナは姉妹よりも年上で、男女のことも含めて極めて打算的な考えを持っている。年は若いがまあ一筋縄ではいかない、いわば遣り手ばばあみたいな強さをもつ女さ」
「遣り手ばばあだなんて、大家も下品だねえ」
「まあ黙ってお聞きよ。このデスピーナが重要な役回りを演じるんだ。姉妹がただならぬ様子で現れ、毒薬はどこ?刀はどこ?とわめきちらすのにデスピーナはびっくり。殊に妹のドラベッラの感情の激し方は尋常ではない。恋人が戦地に行ったことが、即恋人の死と結びついてしまっているのだ。ここでドラベッラは悲痛な心をヒステリックに歌い上げる。このアリアも技巧だけに終わらない優れたものだよ。デスピーナは悄然としている姉妹に、もし恋人が戻らなくても男なんていくらでもいるし、留守中の気晴らしに浮気でもしなさいよとけしかける。姉妹は怒るがデスピーナは、男に貞節なんてものはない。男のやることなんて偽りの涙とごまかしの愛撫。女も同じやり方で仕返ししましょう。気安く愛しましょう。ラララ。とアリアを歌う。いや大した女だねえ。女たちと入れ替わりに現れたアルフォンゾは、機転のきくデスピーナを仲間に引き入れることにする。金貨1枚でデスピーナは目出たく仲間入りだ。そこにアルバニア人に変装したグリエルモとフェランドが現れた。アルフォンゾは自分の友達だと紹介。デスピーナも珍妙な変装を見破れない。そこにフィオルディリージとドラベッラが現れた。姉妹は見知らぬ男たちが部屋にいることを咎める。するとアルバニア人二人が、あなたたちの美しさにひかれて恋いこがれているのだと言うではないか。怒りで震える姉妹。それを見て安堵する変装した仕官たち。そこへアルフォンゾが現れて、二人は自分の親友で、二人が姉妹に一目惚れしてしまったと取りなすが、フィオルディリージは、婚約者以外のどんな男にも誘惑されず、死ぬまで貞節を守るといって、至難なことで有名なアリアを歌う。知的で抑制心の強い彼女の性格が明確に表れたこのアリア、しかし後半部分ではやや心の動揺も見られ、女心の微妙さも窺えるんだ。まさに名アリアだねえ」
「なるほど、言われた通り聴き所満載のオペラだねえ」
「姉妹はその場を立ち去ろうとするが、男たちは姉妹を呼び止め、グリエルモが愛の恵みを乞い求めるアリアを歌う。これは中身の薄い大げさな言葉を並べ立てた軽妙な歌だ。しかし姉妹は憤然と去っていってしまう。残った男3人は軽妙な三重唱を歌う。愉快な芝居にすっかりはまっているのだ。そしてグリエルモとフェランドは、もう賭けに勝ったつもりでいるが、アルフォンゾは、期限は明日の朝までだと釘をさす。ここで音楽は突如優美なものとなって、フェランドのアリアが歌われる。愛の喜びを歌ったこのアリアは多くのテノールのアリアの中でも出色の美しさで、フェランドが極めて愛情深く感性豊かな男であることを表している。仕官たちが去るとアルフォンゾとデスピーナは何やら相談。一方姉妹は幸福の絶頂から悲しみのどん底に落ちてしまった運命を嘆き合っている。するとなんだか鋭い叫び声が聞こえてきた。二人のアルバニア人が毒を飲んで苦しんでいるのだ。アルフォンゾは、彼らは姉妹の冷たい素振りに絶望して毒を飲んだと半ば責めるように言う。狼狽する姉妹。デスピーナが現れて、とにかく医者を呼んでくるとアルフォンゾと一緒に出ていってしまった。残された姉妹は苦しむ男たちをこわごわ覗き込んだりしている。そこへアルフォンゾが医者を連れて戻ってきた。実はこの医者はデスピーナの変装。なにやら勿体ぶった口調の医者は、大きな磁石を取り出してかざし、やおら男たちの身体を撫でると、あら不思議!男たちは動き出した。早く介抱してやりなさいと姉妹に命令する医者。言われて姉妹は男たちを介抱。そしてキスを強要されてしまう。戸惑う姉妹。芝居の面白さに浮かれるデスピーナ、アルフォンゾ、そしてグリエルモとフェランド。このドタバタ騒ぎのうちに一幕は終わるのさ」
「一幕はずいぶん盛り沢山なんだねえ。息つく暇もないね」
「そうなんだ。それじゃあ二幕に進もうか」

【第二幕】

「デスピーナは姉妹の着替えを手伝いながら、恋のチャンスを逃してはダメ!貞淑と浮気を使い分けなさいよと姉妹をけしかけ、ついで<女が15にもなれば>とアリアを歌いだす。千人の男を目で誘い、美男にも醜男にも気をもたせ、女王様がするようにしたい放題するの、と言って従わせるのよ、楽天的で享楽的な生き方が一番と勧めるんだ。これはデスピーナの魅力が爆発したような印象的なアリアだ。姉妹はまだ迷っているが、妹のドラベッラは少し楽しんでも良いかなと思うようになった。そして姉のフィオルディリージも、なんとなくそんな気になってきたんだ。そこで二人のアルバニア人のどちらを選ぼうかという話になる。二重唱を歌いながら、ドラベッラは黒髪の方、つまりグリエルモを、フィオルディリージは金髪の方、つまりフェランドを選ぶことになった。実際の恋人とは逆の男を選んだんだね。アルフォンゾが姉妹を庭に誘うと、アルバニア人二人が船に乗ってセデナードを甘く優しく歌っている。やがて姉妹とアルバニア人二人は再びまみえるが、共にモジモジしている。アルフォンゾとデスピーナが場を取り持って、フィオルディリージとフェランドは散歩に出た。残ったドラベッラにグリエルモはハートのペンダントを贈ると申し出、代わりにフェランドの肖像が入ったロケットを要求する。ここから二人の二重唱となり、ついにドラベッラはグリエルモの誘いに応じてしまうんだ。一方フィオルディリージは頑なにフェランドの誘いを拒み、フェランドは、逃げてばかりだとフィオルディリージを非難する。フェランドはグリエルモに我々は賭けに勝ったぞと言うが、グリエルモは煮え切らない。女の貞節を疑ってみる必要があるなんて言い出すのだ。そしてドラベッラがフェランドの肖像が入ったロケットを手放したことを知ってフェランドは逆上する。そこでグリエルモは余裕たっぷりにアリアを歌う。女性の皆さん、あなたがたはよく浮気をしますね。あなたがたは可愛いし愛嬌もある。魅力たっぷりだ。でもちょくちょく浮気するとは信じられん。男がわめくのにも訳があるようですな。このアリアにはちょっぴり虚栄心の強いグリエルモの性格がよく出ているね。傷心のフェランド。有頂天のグリエルモ。しかしアルフォンゾは賭けの決着は明日の朝まで待てと念を押すのだった。さて姉妹たちの方といえば、ドラベッラは新しい恋に夢中。フィオルディリージは揺れ動き出した心にイライラしていた。ドラベッラは<恋は盗人>とアリアを歌う。軽快なリズムに乗りながら、もうこうなったら恋の誘いに身を任せなさいと姉に言い聞かせるドラベッラ。彼女は新しい恋に燃えているだけにこのアリアは明るさに満ちている。独りになったフィオルディリージはデスピーナに軍服を持ってこさせ、不貞の罪を犯さないためには、恋人のいる戦地に赴くしかないと軍服を身にまとう。陰でこれを見ていたフェランドは意地でもフィオルディリージを誘惑しようと思った。ここからの二重唱がこのオペラの白眉だ。もうすぐ恋人のもとに行けると歌う彼女。フェランドは拒絶されても食い下がり、剣でこの胸を突き刺してくれ!と迫る。揺れるフィオルディリージの心。そして遂にフィオルディリージはフェランドの誘いに負けてしまう。この音楽は聴き逃せないよ。一番の聴き所だね。さあ、これを見ていたグリエルモは収まらない。アルフォンゾは彼女たちをあるがままの姿で受け入れてやりなさいと諭し、アリアを歌う。人は女を非難するが私は許そう。たとえ一日千回変心しようとも、私にはそれは必然だと思える。女はみんなこうしたもの!グリエルモとフェランドも共に唱和した。女はみんなこうしたもの!」
「さて、話は急速に進む。何と姉妹とアルバニア人の結婚式が行われるのだ。華やかな会場。明るい祝福の歌声が響く。フィオルディリージとフェランド、ドラベッラとグリエルモの二組の男女が登場し、雰囲気は最高潮。しかしグリエルモの心中は穏やかではない。そこへ公証人が登場。これもデスピーナの変装だ。公証人に促されて結婚証明書に男女はサインした。するとその時、兵士たちの合唱が聞こえてきた。さあ大変、仕官たちが帰ってくるではないか!慌ててアルバニア人たちを逃す姉妹。姉妹の心は、もうどうしてよいか分からず、乱れっ放し。大騒動の中、いつの間にか軍服に着替えたグリエルモとフェランドが登場。王様の命令が取り消されたのだという。青ざめる姉妹、公証人を見つけて咎める仕官たち。公証人がデスピーナの変装だと知って、何が何だか分からなくなってしまった姉妹。アルフォンゾがわざと落とした結婚証明書。それを拾って、裏切りだと姉妹を詰問する士官たち。姉妹は、私は死罪です。胸を剣で突いて下さいと身も世もない有様だ。やおらグリエルモとフェランドがアルバニア人用の変装の衣装を持ってきて全てが明かされる。全部芝居だったのだ。姉妹に、あの人が私たちを裏切ったと非難されたアルフォンゾは、それはあなたたちの恋人の目を覚まそうとしてやったことですよ、さあ4人とももう笑って、と4人の仲を戻そうとする。そして4人は、元のフィオルディリージとグリエルモ、ドラベッラとフェランドのペアに戻るのだった。これで人の心の動きを描いたこのオペラは幕。後にはこれからの恋人たちの行く末がどうなるのか創造を張り巡らす聴衆に余韻がいつまでも残るという寸法さ」
「へー!随分と人の心を弄ぶ話だねえ。フェミニストのおいらたちには、姉妹が可哀想でいけねえよ。だって恋人が突然の出征で死ぬかもしれないという状況におかれ、今度は熱烈に姉妹を恋する相手が現れて、それをけしかける奴がいてさ。毒を飲んでしまった相手への同情が愛に変わっていってしまったんだろ?姉妹は何も積極的に浮気しようなんて思わなかったんじゃないか」

このオペラのもう一つの題名は【恋人たちの学校】

「おお、よく言ったね。あたしも同感だ。実はこのオペラには別に題があって、それは恋人たちの学校と言うんだ。情熱的な口説きや、虚実交ぜての駆け引きなど、まさに学習させられるね。それに登場人物6人の性格の違いはどうだ!世の中の人間全てがこのパターンにあてはまりそうじゃないか。ダ・ポンテは、強くもあり弱くもある、また全く正反対の考えも同居する人の心、そして様々な性格の持ち主が構成する社会で生きる『人間の心の移ろいやすさ』を描きたかったんだろうね。まあ、これからあたしが人間の学校の校長になって、熊さんや八っつぁんをずっと指導してやるよ。先ずはオペラを楽しんでおいで」
「なんでい。結局おいらたちは、ずっと大家の講釈や説教に付き合わなければならねえのか。じっくりオペラを見て人間研究してさ、いつか大家に講釈するようになりてえもんだなあ。そいじゃ行ってくるぜ」

(文責:萩野 昌良)